スクーバルの調停勝利が球界にあたえる影響 資金のないチームはスター選手を保有できなくなる?

 持たざる者は死ぬしかないのか。球界最高の左腕が勝ち取った年俸は、メジャーリーグにおける「戦力均衡の精神」を破壊するかもしれない。

タリック・スクーバルが年俸調停に勝利

 2月5日(日本時間6日)、タイガースのタリック・スクーバルが年俸調停に勝利した。これにより、スクーバルの今季年俸は3200万ドルで確定した。

 スクーバルは「球界ナンバーワン」との呼び声も高いサウスポーだ。昨シーズンは13勝、防御率2.21をマークし、2年連続でサイ・ヤング賞を獲得した。

 今年でメジャー6年目を迎えるスクーバルは、調停権を有する。2026年シーズンの年俸について、タイガースは1900万ドル、スクーバルは3200万ドルを提示。調停委員は、スクーバルの希望額を支持した。

 調停権を有する選手としては史上最高額だ。これまでは、フアン・ソトが2023年のオフにヤンキースと結んだ「3100万ドル」が最高額だった。

年俸調停とは?

「ふさわしい年俸」を話し合う権利

 年俸の決め方について、メジャーリーグには3つのフェーズが存在する。まず、メジャー3年目までの若手選手は「最低年俸」が保証される。2026年は78万ドルだ。

 そして、メジャーでの実働年数が4年を超えた選手には「調停権」が与えられる。調停権を獲得した選手は「自身の成績にふさわしい年俸」を球団と話し合うことができる。現在のスクーバルはこのフェーズに該当する。

 実働年数が6年を超えると、満を持してFAとなる。メジャーリーガーの夢である巨大契約は、FAになってはじめて手にすることができる。

合意できなければ「公聴会」へ

 年俸調停について、まず、選手と球団がそれぞれ、年俸の希望額を提示する。双方の希望額がピッタリと一致するケースは稀だが、多くの場合は中間の金額で決着する。

 たとえば、選手が800万ドル、球団が600万ドルを提示した場合、その中間の700万ドルで合意に達するというわけだ。

 もし交渉期限(1月中旬)までに合意にできなかった場合、第三者に決定を仰ぐことになる。これを「公聴会」といい、通常3名の調停委員が最終判断をくだす。

公聴会で重視される基準とは?

 公聴会では「選手の成績」はもちろん、チームにおけるリーダーシップや観客動員への貢献なども加味される。

 もっとも重要となるのが「過去の事例」だ。過去に同じような成績をマークした選手が手にした年俸を引き合いに出し、双方が希望額の妥当性を主張する。

資金力のない球団に及ぼす影響

貧乏球団はスターを保有できなくなる

 今後、資金力に乏しい球団は、さらに苦しい球団運営を強いられるかもしれない。これまで、スター選手はFAになってはじめて巨大契約を手にすることができた。今後は、調停権を獲得した時点で「相応の年俸」を要求するケースが多発するだろう。

 ひとりの選手に高額な年俸を支払えば、ペイロールがひっ迫され、チーム運営に悪影響を及ぼす。そのため、スモールマーケット・チームは、スター選手が調停権を得た段階でトレードする必要に迫られる。

トレード・バリューの低下

 高年俸の調停選手をトレードするにしても、資金力のない球団は割りを食うことになる。

 スクーバルはこのオフ、トレードの噂が頻繁に報じられてきた。トレード市場におけるスクーバルの価値は「球界最高の投手を安値で保有できる点」であり、その見返りとしてタイガースは膨大な対価を要求することができた。

 しかし、調停選手が高額な年俸を手にすることで、トレード・バリューが低下し、見返りも限定的になる。「スター選手を放出してもじゅうぶんな対価を得られない」という負の状況に陥ることになる。

「囲い込み」が増える

 資金力のない球団は、スター選手を長期的に保有するために「囲い込み」をおこなう。要するに、実力のある若手選手に対し、適正年俸が高騰する前に複数年契約を結んでしまうのだ。

 たとえば、ブレーブスのロナルド・アクーニャ・ジュニアは、メジャー1年目(2018年)を終えた段階で8年1億ドルの契約延長に合意した。ブルワーズのジャクソン・チョーリオはメジャー・デビューに先立って8年8200万ドルの契約を結んだ。

 2人とも卓越した成績を残しているが、囲い込みの甲斐もあり、アクーニャ・ジュニアは1250万ドル、チョーリオは1025万ドルの平均年俸で済んでいる。

まとめ

 今シーズンが終われば、現行の労使協定が失効する。サラリーキャップを中心に、大リーグ機構と選手会が新たな取り決めを話し合う。

 球界の「貧富の差」を是正すべく、調停権のあり方も見直されるかもしれない。