カルロス・ベルトランが米野球殿堂入り なぜ「ステロイド」はアウトで「サイン盗み」はセーフなのか?

カルロス・ベルトランが米野球殿堂入り

 1月20日(日本時間21日)、米野球殿堂は新たに2人の殿堂入り選手を発表した。カルロス・ベルトランは84.2%の得票率を獲得し、有資格4年目で殿堂入りを果たした。アンドリュー・ジョーンズは78.4%の得票率を獲得して、有資格9年目での選出となった。

球史に名を残すスイッチヒッター

 ベルトランはロイヤルズやメッツなどで活躍したスイッチヒッターだ。パワーとスピードを兼ね備え、スイッチヒッターとして史上唯一となる「300-300(435本塁打と312盗塁)」を達成。華麗な中堅守備でも知られ、3度のゴールドグラブ賞を誇る。

 輝かしい功績を残したベルトランだが、その晩節を汚すことになったのが、2017年の「サイン盗み問題」だ。今回の殿堂入りを受けて「なぜサイン盗みを首謀した張本人が殿堂入りできるのか?」といった意見が噴出している。

アストロズの「サイン盗み問題」とは

ゴミ箱の音でサインを伝達

 アストロズは2017年に101勝61敗の好成績でア・リーグ西地区を制すると、勢いのままにワールドシリーズを制覇した。事態が急変したのは、その2年後のことだ。優勝時に在籍していた投手のひとりが、アストロズの「サイン盗み」を告発したのだ。

 「サイン盗み」とは、相手捕手が投手に対して送るサイン(球種やコースの指示)を、なんらかの方法で味方の打者に伝えること。アストロズの場合は、センタースタンドに設置したカメラで捕手のサインを撮影し、ゴミ箱を規則的に叩くことで打者にサインを伝達していた。

 以下の動画は、米野球メディア『ジョムボーイ』が、当時の映像を振り返りながら疑惑を検証したもの。ゴミ箱を叩く音が鮮明に録音されている。

「首謀者」は現役最終年のベルトラン

 この騒動は、競技の高潔性とメジャーリーグの信用に関わるものであり、アストロズには非難が集中。大リーグ機構はチームに対して「2年間のドラフト指名権(1巡目・2巡目)の剥奪」と「罰金500万ドル」を課した。

 そして、サイン盗みの首謀者として浮上したのがベルトランだった。当時、ベルトランはアストロズで現役ラストイヤーを過ごしており、ベンチコーチのアレックス・コーラ(現レッドソックス監督)とサイン盗みを主導したとされている。

「サイン盗み」の厳罰化

 この騒動を経て、大リーグ機構は「電子機器を用いたサイン盗み」を取り締まるルールを策定した。また「ピッチコム」が普及するきっかけにもなった。ピッチコムを使えば、手動ではなく音声によるサイン交換が可能になる。サインを盗まれる心配がなく、試合時間の短縮にも一定の効果をもたらしている。

なぜベルトランは殿堂入りできたのか

 ベルトランが殿堂入りを果たした背景には2つのポイントがある。

疑いようのない圧倒的な功績

 ベルトランはスイッチヒッターとして史上初の「300-300」をクリアしただけでなく、2013年にはロベルト・クレメンテ賞を受賞した。

 同賞は、慈善活動を通じて社会に貢献したプレイヤーに贈られるもの。ベルトランは、故郷・プエルトリコの教育支援に尽力。基金を設立したり、野球アカデミーを開設するなどの活動が評価された。

 米野球殿堂の選考では、プレイヤーとしての実績だけでなく、人格やスポーツマンシップも考慮される。ベルトランは晩節こそ汚したが、圧倒的な実績と社会貢献活動は、間違いなく殿堂入りにふさわしいものだ。

サイン盗みは「チームの罪」

 1990年代後半から2000年代のメジャーリーグは「ステロイド時代」と形容されるほどドーピングが蔓延していた。米野球殿堂はステロイドを使用した疑惑のある選手に対して厳しい姿勢をとっている。

 例えば、歴代1位の762本塁打を放ったバリー・ボンズ(ジャイアンツほか)や、3000安打と500本塁打を達成したラファエル・パルメイロ(レンジャーズほか)は薬物疑惑の影響で殿堂入りを逃している。

 サイン盗みもステロイドと同様に、看過できるものではない。しかし、責任の所在が大きく異なる。ステロイド使用は「個人の罪」であり、キャリア全体の評価に直結する。一方、サイン盗みは「チームの罪」である。

 実際に「ドラフト指名権の剥奪」や「罰金」といったペナルティはアストロズに課せられたものであり、選手個人にペナルティが課せられることはなかった。

 よって、サイン盗み問題はベルトランのキャリアに決定的な影響を与えるものではなく、今回の殿堂入りもその証左である。

まとめ

 ベルトランが残した実績は殿堂入りにふさわしいものだ。しかし、ベルトランという「史上最高のスイッチヒッター」を語るうえで、今後もサイン盗み問題は論争の的になるだろう。